第3報:スゥィートものがたり

《スゥィートものがたり》

第3プログラムのトップを飾るのは、亡き師、豊島和子哀悼にふさわしい一作。「ダンスプラン2010」最優秀賞や「ソウル国際ダンスコンペティション2011」第三位など活躍中のリセ卒業生、四戸由香(よしか)によるソロ『Saudade —— あの場所へ ——』。

四戸由香ソロ『Saudade』の前に/『nori-shiro 2011』のステージより ©DANSE BALLET LYCÉE

ここでは2011年1月「座・高円寺」で上演されたモレキュラーシアター『のりしろ nori-shiro 』公演から、四戸の出演シーンを掲げたい。ちなみに3プロのトリを飾るのは、リセアンとして成長著(いちじる)しい久保田祥貴(よしたか)による「埼玉全国コンクール2011」第三位受賞のソロ『微生物バロック』と、リセエンヌの有望株の一人、中野真李(まり)による「埼玉全国コンクール2011」特別賞受賞のソロ『わが谷 緑なりき』。

久保田祥貴ソロ『微生物バロック2011』のステージより ©DANSE BALLET LYCÉE

中野真李ソロ『わが谷 緑なりき 2011』のステージより ©DANSE BALLET LYCÉE

谷あいの故郷の村に還ってみれば、かつて緑に覆われていた姿はすっかり失われていた、という無念と哀惜(あいせき)の「緑なりき」なのか。それとも、廃村と離散を強いられてから何十年も経ったというのに、戻ってみたら驚くべきことに今なお昔のまま緑に覆われている、という歓喜と感涙(かんるい)の「緑なりき」なのか。10月23日のステージから、その目で確かめていただきたい。

55周年記念公演《ギンリョウのたびだち》には、隠れたテーマがいくつも潜んでいて、その一つが「Suite スゥィート」。第1プログラムのクラシックバレエ『Coppelia Suite コッペリア・スゥィート(組曲)』が、つづく第2プログラム『水曜日のスゥィート』や第3プログラム『木曜日のスゥィート』など、フィナーレの第6プログラム『月曜日のスゥィート 〜種子の方舟』までトゥ・シューズさながら踏襲(とうしゅう)されている。当日のステージに足を運んでくれる観客の方々はもとより、どこかやや上方から観ているはずのリセ創設者、豊島和子にも「スゥィート」の遊び心をたのしんでほしいからだ。
耳だけのオンなら「スゥイート(スウィート) Sweet」とほとんど区別がつかない「Suite スゥィート」の「e」をとると、「Suit スート(スュート)」にオンが一変する。いわゆる高級スゥィートルームが前者なら、三つ揃いのスーツが後者である。それに加えて、後者の「Suit スート」は訴訟・嘆願・求愛・適合など多義的であり、「suitable スータブル(〜にふさわしい)」もその系列から派生する。故人を偲(しの)ぶに「suitable スータブル」な、〈水〉や〈木〉や〈月〉をモチーフとした、ひとそろいの組曲、それが「Suite スゥィート」にほかならない。

ちなみに『Coppelia Suite コッペリア・スゥィート』の挿話を一口にいうと、コッペリウス博士が造形した、美しい人形コッペリアに恋する若者の悲劇だと要約できる。さながら自分が造形した美しい彫像ガラテアに恋するピグマリオン王。王は芸術の女神に願いでて、ガラテアに人間の命を吹き込む。だが、至福のときは、いつだってつかの間。彫像の美が永遠なのに反して、美女ガラテアには老いと死が足早に訪れる。ピグマリオンは神を呪うが、もう遅い。はなから願いを聞き入れた「神の黒い笑み」に気づかなかっただけなのだ。2009年「埼玉全国コンクール」特別賞の千葉馨ソロ『ガラテアの骨』。ここでは、その千葉馨による翌2010年ソロ『獲物の作法』の舞台写真を掲げておきたい。

千葉馨ソロ『獲物の作法 2010』のステージより ©DANSE BALLET LYCÉE

コッペリア綺譚(きたん)に話を戻そう。そのヴァージョンというか「ヴァリアント=異稿・異奏」は数知れずあるが、ドイツロマン派の作家、E.T.A. ホフマンによる小説『砂男』を、一つの源流もしくは祖型(そけい)とみて差し支えあるまい。思い出せる限りで筋書きを述べてみると、若者は通りすがりに路上の眼鏡売りから不思議な眼鏡を入手する。その眼鏡で目撃した向かいの裏窓には、美しい娘コッペリアの姿が。その手荒(てあら)な父親コッペリウスは、あの路上の眼鏡売りと同一人物としか思えない。ここでもう若者とともに私たち読者は、「ユメをみる目玉」という球状迷宮に内閉(ないへい)されていることになる。幼な子を入眠へと誘う「砂男のララバイ」とともに。己れの目玉をくり抜かれることと引き換えに、若者は恋する娘を暴君の父から救出しようとする「ユメ=入眠幻覚」そのものと化していく。悲惨な結末は問題ではない。路上の眼鏡売りは今も、新たな餌食(えじき)を求めて出没している。黒い笑みを絶やさず。獲物には獲物の作法があることを告知しつつ。
(2011.Oct.11st 現ダンスバレエリセ主宰 豊島重之

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投稿日: 10月 11, 2011 | カテゴリー: Uncategorized | パーマリンク コメントする.

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