第4報:リセエンヌ紹介

第4報:リセエンヌ紹介


最新ニュースをひとつ。第3プログラムのトップに踊るリセ卒業生、「ソウル国際ダンスコンペティション2011」で第三位受賞の四戸由香(よしか)が、世界的に活躍中の笠井叡(あきら)ダンス公演『虚舟 うつろぶね』(横浜赤レンガ倉庫・10月14〜16日)に出演したばかり。その公演を観に出かけたリセ卒業生の大先輩、長谷川風立子(さつこ)から、終演後の楽屋でのツーショットが届いた。

四戸由香と長谷川風立子(横浜赤レンガ倉庫・2011年10月)©DANSE BALLET LYCÉE

風立子(さつこ)さんは1996年「あきた全国舞踊祭コンクール」最優秀群舞賞受賞作『土偶』の一人、翌97年「埼玉全国コンクール」モダン2部・第三位受賞のソロ『狐火』など、リセ在籍中の活躍は、四戸ら後輩を鼓舞(こぶ)してくれたものだ。八東高表現科から御茶の水女子大へ、卒業後もダンスユニット「colonch(コロンチ)」や「プロジェクト大山」のメンバーとして、いま最も精力的なダンス最前線の一角を占めている。「よしか」と「さつこ」のツーショットは、来たる10月23日の記念公演と「亡き師、豊島和子お別れ会」への最強のブーケであるのは疑いえない。


この記念公演《ギンリョウのたびだち》に、どんな作品がプログラムされているか。ここでは、第4プログラムの二作のうち、リセ卒業生4名による追悼作品《Left Long Left(置き去りに、かくも長き)》を取り上げようと思う。現役リセエンヌ6名による群舞《人称と所在》と、くっきり質感を異(こと)にする、この二作を立て続けに観られるなんて、リセ創設者追悼公演でなくてはありえない、これ一回きりのラインナップであろう。創設55年もの軌跡を有する「リセの底力」を、あるいは「この二作の併存(へいぞん)」にみてとれるかもしれない。《Left Long Left 》の振付け・構成・出演のリセ教師田島千征(ちゆき)は、《人称と所在》を振付け構成した大久保一恵(かずえ)とともに、モレキュラーシアター公演には欠かせぬメンバーでもある。その田島の2009年の八戸市美術館でのステージを、まず掲げたい。

田島千征ソロ1(八戸市美術館・2009年9月)©DANSE BALLET LYCÉE

服部明子(あきこ)を筆頭とする現リセの専任教師三人とも、幼少時には亡き師に学んだ現役リセエンヌであったことを忘れないためにも。


田島千征の2点目の表情に注目してほしい。

田島千征ソロ2(『イル・イル』月島公演・2008年11月)©DANSE BALLET LYCÉE

空虚で薄っぺらい表情が、それなりに精一杯、時代に順応したあげくの均質な表情が横行(おうこう)するなか、これほど予感をはらんだ豊かな表情は、一朝一夕(いっせき)で成されるものではあるまい。「写文集」に収録された「リセ55年の軌跡」を繰(く)ってみると、1977年、私の台本・演出による『こよい異装(いそう)の弦月(げんげつ)の下』に、田島千征は小学生のリセエンヌの一人として出演していた。いうまでもなく賢治の詩の一節から援用されたタイトル。田島が今回の追悼文に「和子先生には赤いバラがとてもよく似合います。和子先生は、両手に赤いバラ一輪をかかえてゆっくり歩いてきます。ゴォーッという音がするほどの超音速でゆっくりと。」と触れているのは、このときの舞台の鮮烈な印象が、子ども心にも忘れがたく刻まれることを示してやまない。むろんこの自覚は、来たる追悼公演にも引き継がれて、どんなに小さなリセエンヌの小品にも手が抜けないことを意味している。


季節はめぐる。1994年12月末から95年1月初めにかけて「三陸はるか沖大震災」で損壊(そんかい)した「研究所スタジオ」は、翌96年1月には「ダンスバレエリセ」に生まれ変わる。その94年前後から田島はリセエンヌに復帰、モレキュラーメンバーの一員として、両国シアターX(カイ)公演や豪州アデレードフェスティバル招待公演に渡航・出演していた。その田島の3点目。

田島千征ソロ3(『イル・イル』月島公演・2008年11月)©DANSE BALLET LYCÉE

2点目の表情がここまで深まるには、「かくも長き」ひとりきりの暗渠(あんきょ)を諦めることがなかったからに違いない。微光を求めて。2000年にリセ教師になってからも、04年に「ピラティス国際指導者資格」を取得してからも、苦闘は人知れず続いたはずだ。07年『バレエ・ビオメハニカ』〜08年『イリュミオール・イリュシオール』の壁面「三面ヴァージョン」から、10年4月の早大戸山キャンパスでの「一面ヴァージョン」へと展開が深まるなか、このスナップの一瞬は、田島のダンス的思考もまた着実に何ごとかを掴(つか)んだ証左(しょうさ)ではないだろうか。


田島の4点目。

田島千征ソロ4(『イル・イル』月島公演・2008年11月)©DANSE BALLET LYCÉE

不安をたたえながらも端麗(たんれい)さを失わぬ前3点とは打って変わって、あたかも戦慄の恐慌(パニック)に襲われたような一瞬が捉えられている。じつは『バレエ・ビオメハニカ』公演の軸となった題材は、第一次世界大戦に乗じて果たされたロシア革命、とりわけ革命後ロシアを駆け抜けた演劇芸術家フセヴォロド・メイエルホリドの栄光と悲劇。大粛清(しゅくせい)の嵐のなか、1939年7月14日の深夜に自宅で惨殺(ざんさつ)された『椿姫』のマルグリット役、メイエルホリドの妻で女優のジナイーダ・ライフの非業(ひごう)の死がそこに重ね合わされている。ギリシア悲劇のアンティゴネーさながら埋葬を禁じられながら、椿をあしらった黒のビロードのガウン(マルグリットの舞台衣装)をまとってライフは、内々に墓に収められたという。1939年といえば豊島和子は10歳、遺作『星宿のジュクルパ』の衣裳をまとって旅立っていったのは偶然だろうか。ジナイーダと豊島和子、メイエルホリドとアンティゴネー。田島の4点はその表象の臨界なのだろうか。


だとすれば、田島による《Left Long Left 》を示唆する5点目があるに違いない。

田島千征ソロ5(『のりしろ』高円寺公演・2011年1月)©DANSE BALLET LYCÉE

そしてその5点目には、次のようなキャプションが。

————宛先を書き忘れた手紙が投函された。おまけに差し出し人の名もまた。途方に暮れた配達人から局の仕分け倉庫へ、とはいえその仕分け人も長らく病休にあるらしい。あてどなく彷徨(さまよ)う「silent letter サイレント・レター」(表音されない黙字をも意味する、何も打ち明けてくれない手紙)、もしくは「dead letter デッドレター」の行方を追って、四人の「agent 主体代行業」が色めき出す。だがその行く手には、次々と不可解な事態が散発するばかりで、杳(よう)として手がかりは掴(つか)めぬまま。やがて ————。


さて、その《Left Long Left 》に出演する残り3名を紹介したい。まず佐々木麻友(まゆ)。

佐々木麻友(『Re:peat』京都造形芸大公演・2011年)©DANSE BALLET LYCÉE

リセ卒後・八戸東高表現科卒後、京都造形芸大舞台芸術学科で研鑽(けんさん)を積んだあと、現在、京都から東京に転住して活躍中。このスナップは2011年3月の卒業制作公演『Re:peat』のワンシーン。今回の新作では、トレンチコートを羽織ったエージェント、ミッション・インポッスィブルさながらの間諜(かんちょう)めいた探索者の出で立ち。リセ在籍中とはスリリングに変身した佐々木麻友の「ダンス・サスペンス」を期待できる。

そして、やはりリセ卒業生の西塚由佳(ゆか)。

西塚由佳(『コリオリ』八戸市美術館・2006年9月)©DANSE BALLET LYCÉE

リセ50周年公演では、旧姓・小幡由佳として千征作品『coRioLis コリオリ』に出演、中軸メンバーとして難度の高い振付けをこなしていた姿は記憶に新しい。新作ではやはりトレンチコート姿で登場。いうまでもなくトレンチとは、前述した第一次世界大戦で大量の死者や「戦場神経症」を生み出した塹壕(ざんごう)に由来するが、近年では三内丸山遺跡に準じた青森県立美術館の建築設計のトレンチ構造として知られていよう。ちなみに1920年代フロイトによって解明された「戦場神経症」は、今や「PTSD=ポストトラウマティック・ストレスディスオーダー」として人口に膾炙(かいしゃ)しつつ、「9.11や3.11」のトピックスともなったけれども、その歴史性が忘れられがちなのはいかにも残念でならない。

《Left Long Left 》に出演する4人目が、やはりリセ卒業生の秋山容子(ようこ)。

秋山容子(『のりしろ』高円寺公演・2011年1月)©DANSE BALLET LYCÉE

田島と同様、近年のモレキュラーシアター公演の全作に出演しているのだが、常連の観客にさえ、なじみが薄いかもしれない。というのも、終始、客席に背を向けた「プロジェクショナー」に扮することが少なくないからである。演出の私がアフタートークで何度も言及している「物陰に回る(四角ならぬ)死角の演劇」を体現するのが、この秋山容子なのだ。そしてトーク以前に、上演を一目(ひとめ)みて誰もがたちまち気づくことは、「プロジェクショナー」の存在が、かの大粛清(しゅくせい)を執務室の奥の間から蔭で指揮していた権力者だけを暗示しているのではない、ということだ。いうなれば、この地上のあらゆる強制収容所の監視塔に設置されたサーチライトの「換喩=メトニミー」。秋山のスナップは2011年1月『のりしろ』の出演シーンである。

(16th.Oct. 2011 現ダンスバレエリセ主宰 豊島重之)

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投稿日: 10月 17, 2011 | カテゴリー: Uncategorized | パーマリンク コメントする.

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